精神疾患の種類

統合失調症

統合失調症は、およそ100人に1人弱はかかると言われている病気で、脳の異常によってさまざまな精神症状や生活の障害が生じます。慢性の経過をたどりやすく、良くなったり悪くなったりを繰り返します。陽性症状と陰性症状が特徴的な症状で、陽性症状では、妄想や幻覚によって生活に支障をきたすほどになることもあります。陰性症状では、うつ病のような症状になることもあり、感情表現が乏しくなったり、意欲が低下します。

うつ病

うつ病はおよそ100人に37人はかかると言われている病気であり、近年患者数は増えています。テレビなどでも取り上げられるようになり有名な心の病気のひとつになりました。

 何をしてもやる気が出なかったり、自分を過小評価したり、症状が進行すると自殺を考えるように。脳の病気と言われており、決して気の持ちようではありません。一方で予後の良い精神疾患のひとつです。丁寧にきちんと治療を進めることで、回復する希望のある病気です。最近では、若年者に多い非定型型うつ病の存在が話題になっており、他責的な一面があります。薬が効きにくく、適応障害と似た症状が特徴です。

双極性障害(躁うつ病)

双極性障害では、抑うつ状態と躁状態を繰り返していきます。躁状態では、化粧が濃くなったり、派手な洋服を着るようになったり、声のトーンが高くなったりします。社交的な一面があり、人間関係に困らないように感じますが、非常に精神が不安定で怒りっぽい一面もあります。気分安定薬を継続して内服することで、安定した日常生活を送ることができるようになります。

アルコール依存症、薬物依存症

アルコール依存症や薬物依存症は、大切な家族や仕事よりも飲酒や薬物を優先させてしまう状態になります。アルコールや薬物が足りなくなると離脱症状が現れて、イライラしたり、落ち着かなくなったりします。身体はアルコールや薬物に対して耐性がつき、物足りなくなって摂取量を増やす行動へつながります。依存症は、身体的依存だけでなく精神的依存も存在します。アルコール依存症の自助グループ(AA)が有名で、精神的依存からの脱出を患者さん同士で助け合って行くことが本当の克服につながります。

パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害は、人格形成される思春期から青年期に起こる、認知、感情、衝動コントロール、対人関係などに障害が生じていることを言います。有名なのが境界性パーソナリティ障害で、感情や対人関係の不安定さや衝動行為が特徴です。周囲の人を操作する特徴があり、注意しなければ巻き込まれてしまうことがあります。

認知症

認知症とは、生後いったん正常に発達した精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態を言います。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症などに分かれます。記憶障害が代表的な症状で、一般的な物忘れとは異なります。体験の一部でなく全てを忘れてしまうのが特徴です。

その他にも、失語(うまく喋れなくなる)、失認(物をうまく認識できなくなる)、失行(意味のある行動がとれない)、実行機能障害(段取りを考えられない)などの特徴的な症状があります。

発達障害

 発達障害は病気ではなく、生まれつきの特性です。精神疾患の背景に発達障害がある場合もありますので、紹介していきます。発達障害はいくつかのタイプに分類されており、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害などがあります。生まれつき脳の一部に障害があると考えられていて、環境を整えれば、本来の能力を発揮することができます。紹介した病気以外にも、適応障害、パニック障害、強迫性障害などがあります。

精神疾患患者の症状

症状の現れ方は、発育歴や家族歴などが大きく影響しており、ひとつとして同じ症状はありません。患者さんの数だけ症状が異なります。その中でも精神疾患患者さんに現れる代表的な例を3つ紹介していきます。

身体的症状

①倦怠感②動悸、めまい
③頭痛
④不眠または過眠
⑤食欲不振または食欲増加

精神疾患になると、身体が思うように動かなくなります。人間が本来満たされるべき、食欲や睡眠などに大きく影響してきます。

精神的症状

①幻覚、妄想
②抑うつ、躁状態
③不安、緊張
④怒り、悲しみなど感情の抑制ができない

統合失調症などにみられる幻覚、妄想が特徴的な症状です。本来は存在しない感覚がわかるようになり、なかなか理解してもらえないつらさがあります。

生活・行動面の変化

①生活の変化
服装が乱れたり、昼夜逆転になったり、生活が不規則になります。

②行動の変化
うつ病では、仕事の効率が悪くなったり、遅刻が増えたり明らかな行動の変化があります。

③自傷行為
重度のうつ病では、「死にたい」気持ちが現れ、リストカットなど自傷行為に及ぶことがあります。

④ひきこもり
うつ病で意欲が低下したり、社会に適応できないとひきこもりになる場合があります。

精神疾患の治療方法

身体も心もつらい症状のある精神疾患では、特徴的な治療があります。精神疾患の治療方法について詳しく説明します。

1.休息
2.薬物療法
3.電気けいれん療法(ECT)
4.認知行動療法
5.心理療法(カウンセリング)
6.作業療法

精神疾患の治療の基本は、休息と薬物療法です。退院に向けて、認知行動療法や心理療法、作業療法を組み合わせてストレスとの向き合い方など心のリハビリをおこないます。

精神科救急の現場、受け入れ病院

 精神疾患の急性期は、幻覚妄想状態で自傷他害の恐れがある場合が多く、通常の救急外来では対応が困難です。内科疾患があればたらい回しになることも。

措置入院を中心とした精神科救急では、スーパー救急とも呼ばれる精神科救急入院料病棟を設置している病院があります。

東京都では、次の病院が対象になります。

・東京武蔵野病院
・成増厚生病院
・昭和大学附属烏山病院
・駒木野病院
・東京都立松沢病院
・大泉病院
・薫風会山田病院
・東京足立病院
・桜ヶ丘記念病院
・長谷川病院
・豊島病院
・陽和病院
・多摩あおば病院
・国立精神・神経医療研究センター病院

 関東のその他の県では、

千葉県千葉県精神科医療センターを含む8病院
神奈川県神奈川県立精神医療センターを含む4病院
埼玉県埼玉県立精神医療センターを含む6病院
茨城県茨城県立こころの医療センター
栃木県栃木県立岡本台病院
群馬県群馬県立精神医療センターを含む2病院

がスーパー救急を扱っている病院になります。

夜間、休日に精神症状が悪化した時には、精神科救急を受診できる病院を紹介してくれる案内所があります。それぞれの都道府県の精神科病院では、夜間、休日の精神科救急受け入れ病院を地区で振り分けたり、交代で担当しています。その時の病院を案内してくれるのが、東京都では、東京都保健医療センター(通称ひまわり)になります。24時間電話受付をしてくれます。

東京都の精神科夜間休日救急診療事業では、墨東病院、豊島病院、松沢病院、多摩医療総合センターの4病院が受け入れ体制を整えています。

精神病院での入院期間、費用

精神病院での入院期間は、平均在院日数を見比べるととてもわかりやすいです。

平均在院日数とは、入院してから退院するまでの入院期間の平均です。

H28年度は、全国の病院の平均在院日数は28.5日になります。これには、精神科だけでなく他の診療科も含まれます。

精神病床では269.8日で、前年に比べ4.8日短い結果になっています。精神病院の入院期間は、他の病院に比べてもかなり長いのがお分りいただけるかと思います。

抗精神病薬や抗うつ薬はゆっくり効果が現れるため入院期間が長くなる傾向にあります。精神疾患の症状をコントロールするためには、環境的要因が大きな影響を与えます。

退院後の準備をきちんとしておかないと、すぐに症状が悪化し再入院になるケースが多いためです。

つまり、安易に良くなったから退院できるわけではないのです。

さらに、地域での精神疾患患者の受け入れ体制が整っていないことも理由に挙げられます。

以前よりは退院支援が充実し、退院する患者さんも増えていますが、まだ十分とは言えない状況です。

H20年度の少し古いデータになりますが、精神疾患別の平均在院日数を見比べてみましょう。

疾患名 日数
H8 H20
精神及び行動の障害 438 360
血管性及び詳細不明の認知症 347 420
アルツハイマー病 277 265
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 633 559
気分(感情)障害 160 122
神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 156 78
その他の精神及び行動の障害 492 213

退院患者の平均在院日数(H20)

統合失調症は559日と平均在院日数が一番が多く、続いて認知症が420日になります。年数に換算すれば、平均1年〜2年は入院していることになります。

あくまでも平均の在院日数のため、入院期間が5年、10年になる患者さんも多くいらっしゃるのが現状です。

一方で比較的予後が良いうつ病などを含む気分障害では、122日です。平均で、約34ヶ月で退院できることになりますが、それでも一般の病院に比べれば、入院期間が長期なのは明らかです。

入院期間が長くなれば、気になるのは入院費用のことですよね。精神疾患も他の病院と同じく保険診療です。

あくまでも収入に応じて異なりますが、一般的には、

 69歳までは自己負担割合3
7074歳までは自己負担割合2
75歳以上は自己負担割合1

と決まっています。ただし、食事代や室料、おむつ代などは別途負担しなければなりません。また、生活保護制度や高額療養費制度を利用すると自己負担額も変わってきます。入院費用は、病院によって異なる場合もあり治療内容でも異なるため、一概に平均値などを算出できるわけではありません。ある病院の入院費用の例になりますが、

・入院治療費用15
・食事代34

で最低でも約合計18万はかかってしまう計算になります。個室を利用したり、オムツを使用すればさらに加算されます。収入によって自己負担額が変わるようであれば、差額が返金されますが、それでも入院が長期化すればかなりの負担になります。生活保護では医療費はかかりませんが、食費などの実費は支払わなければなりません。

精神疾患患者の家族の現状

精神疾患患者さんに対する社会からの偏見は根強く、「怖い病気」というレッテルを貼られています。精神疾患患者さんの家族は、周囲からの理解が得られず、肩身の狭い思いをします。

家族は、病気のことを理解しているはずでも、本人を目の前にすると冷静ではいられなくなります。病気が悪化すると、攻撃的になるため傷つく言葉を言われることも。

精神疾患の症状に巻き込まれてしまって、家族が燃え尽きて全員で精神疾患になることだってあります。共倒れにならないためにも、家族への支援は重要です。精神疾患の家族会などは、頻繁に開催されています。

しかし、適切なサポートができる家族はほんのひと握りです。見放してしまったり、音信不通になったり、家族関係がとても複雑なケースがほとんどです。精神疾患患者さんの家族は、HEE(High Expressed Emotion)家族、LEE(Low Expressed Emotion)家族とも表現されます。

HEE家族は、文字通り高い感情表出の家族ことで、過干渉や過保護など、LEE家族は、低い感情表出の家族のことで、無関心などが当てはまります。

HEELEEどちらの場合でも、精神症状が悪化します。家族へのアプローチが、退院後の病状管理において重要な役割を担っています。

精神疾患患者の家族支援

精神疾患患者さんの家族支援は、入院してから始まります。病棟のスタッフが、チームで患者さんと家族を支えていきます。退院してからは、地域の医療職や福祉職が連携しながらサポートしていきます。

家族への支援は、患者さんと同じく重要になります。なぜならば、家族自身が元気でいなければ、患者さんをサポートすることができないからです。

精神疾患患者さんの家族支援の代表が家族会です。統合失調症、うつ病、躁うつ病などの精神疾患を持つ人を身内にかかえる家族が集まって、お互いに情報共有したり、悩みを共有したり、支え合っていきます。

家族会には、次の3つ活動目的があります。

・お互いに助け合う
・学習する
・社会への発信

家族にしかわからないジレンマなど、仲間だからこそ話せることがあります。疑問などを家族同士で解決できるよう、専門職は正解に導けるよう支援していきます。

精神病院を退院後の自立支援方法、自立支援施設(東京都)

精神病床でも平均在院日数が減ってきた背景には、地域の受け皿が増えてきたためです。入院中症状が落ち着いたとしても、退院後に十分なサポートが受けられないと再発をしてしまいます。

退院後の経済的負担を軽減するために、精神科通院医療(自立支援医療)の制度があります。外来通院やデイケアなどの自己負担割合が3割のところ1割になります。

また、精神疾患患者さんの自立支援には、多くの専門職が関わっています。訪問診療の医師や精神科訪問看護師、精神保健福祉士(PSW)、日常生活支援事業による市の担当者、相談支援事業所の福祉職などが自立に向けてサポートしていきます。

自立支援施設には次のような施設があります。

・共同生活援助(グループホーム)
・施設入所(介護が必要な場合)
・宿泊型自立訓練施設

自立支援は住まいだけでなく、通所サービスを利用しながら、メリハリのある生活を整えていきます。活動の場はさらに増えています。

・地域活動支援センター
・外来作業療法
・精神科デイケア
・地域のデイケア

これらを組み合わせて病気と向き合いながら自立していく患者さんを支援していきます。

精神疾患患者の社会復帰支援

精神疾患患者さんの社会復帰支援には、働くことを目標とするサービスがあります。

うつ病などで休職してから、復職するまで、そして復職してからも大きな不安を感じます。復職がスムーズに進むよう、精神疾患を患っていても働けるよう、3つの支援があります。

・就労移行支援

一般企業への就職を考えている人向けの訓練になります。就職や復職に必要な知識や技術を習得します。

・就労継続支援A

一般企業などで働くのが難しい場合に働く場所を提供します。実際に雇用契約を結び、賃金も地域の単価を反映した金額になります。

・就労継続支援B

一般企業などで働くのが難しい場合に、雇用契約を結ばない福祉的な就労です。ステップアップに向けた支援をおこなっていきます。

参考

http://www.heartland.or.jp/shigisan/inpatient/hiyou.html

https://www.nisseikyo.or.jp/images/about/katsudou/hojokin/h27_handbook.pdf